
報連相を求めない。指示も出さない。社員が勝手に判断してテキパキ働く。しかも業績は好調。人手不足の時代なのに社員がやめない。そんな会社あるの?!
あるんです。この度ご縁あって、そんなユニークで興味深い会社の社長さんにインタビューを記事にすることができました。
「ティール組織」という「管理職を置かない」「ホウレンソウ禁止」「入社10年目で年収700万円を目指す」など、常識破りの組織のかたちを取り入れつつあるその会社は大阪府交野市にあります。
ガス切断・プラズマ切断・レーザー切断・など鉄を加工する会社で、一見どこにでもある町工場のよう。ところが社長さんの仕事観が超先進的!
いろいろな質問をぶつけましたが、とても気さくに答えてくれました!一緒に見ていきましょう。
まずは会社の紹介
抱月工業の事業は大きく分けて2つ。
- 鋼板(こうはん)の切断
- 鋼板(こうはん)の加工
従業員は81名、売り上げ高約20億円。強みは豊富な設備と技術力。品質には徹底的なこだわりをもっており、技術力は業界でもトップレベル。
派手ではないですが、とても優良な会社さんです。今回はそんな会社の社長・大久保さんにお話をお聞きしました。大久保さんは経営についてとてもユニークな考え方をされています。
お話をお伺いしていて、「理論ではわかるけどなかなか実践しづらいな」ということを本当に実践されているのがスゴイです。抱月工業株式会社のHPはこちら。
ユニークなポイントその1 ホウレンソウはいらない!?

インタビューは、コーヒーを飲みながらカジュアルな雰囲気で進めました。とても気さくな大久保社長。
こちらの質問にもなんでも答えていただき、恐縮の限りです!
さて、仕事の基本と言われる「ホウレンソウ」を「嫌い」と言い切る大久保社長。??はてなが飛び交いそうですが、これはどういうことなのか。
自分がいなくても会社がまわるようにしたいという発想で、現場への権限移譲を進めているそう。
そういえば「未来工業」という会社さんも「ホウレンソウ」禁止という決まりがありました。
https://toyokeizai.net/articles/-/112677
「正直、心配ではないのでしょうか」
「やってみたら以外とできました」
と語る大久保社長。そんなものですか。なにか特別なことをされたわけでもないようです。
しかし、以下のようなことも。
「僕の知らない間に9万円の掃除機が導入されていたのを知った時は流石にちょっとな・・と思った笑」
とか。それでも何も言わずに現場の裁量に任されているには社員の成長を望む究極の人材育成思想を感じます。
ユニークなポイントその2 管理職はいらない
え!驚きの管理体制です。
「これはどういうことなのでしょうか?」
「私は年功序列はずっと疑問に思っていました。長く会社にいるだけで給与が上がっていくことは弊害のほうが大きいと感じていました。
たまたまですが、管理職の年齢層の社員が定年を迎えたことで世代交代が起きたのを機に、リーダーに権限を与え、責任を持って判断させる体制に切り替えました。」
「不安はないのでしょうか?」
「現場の仕事は現場が一番よく理解しています。だから私が細かく管理する必要はないと思ったのです。リーダーは1年で交代制。皆に機会を与えることで、若手社員も責任を持って働いてくれるようになりました。」
と話す大久保社長。
これは理想的な組織の形に見えますね。最近「ティール組織」という組織の概念が世の中に出てきました。
「すごくよいようにみえるのですが、実際の所はどうですか?やってほしい水準まで社員が自発的に動いてくれていますか?」
「現場の仕事を回すところはうまくできるようになりました。目標を自分達で設定でき、運営できるようになることが次のステップですね」
おっと、それはもはや部長クラスの仕事では。
「人の成長こそが企業の成長です。人を育てるには役職はいりません。ただ、役割は必要です。
役割を平等に与え、人を育てていくのです。まだまだですが、10年後には私の描いたビジョンが実現することを確信しています」
と自信をみせる大久保社長。
目指す会社の姿はティール組織だそう。これはどのような組織なのでしょうか。ここで、ティール組織について勉強してみましょう。
社長が目指すティール組織とは?
ティール組織とは・・・組織の形態の一つです。フレデリック・ラルー氏が概念を提唱し、今年(2018年)1月に刊行され爆発的に売れ続けています。
2018年度、「日本の人事部」のHRアワードを受賞しました。
経営者や人事の方はご存知の方も多いことと思います。ひとことで言うと・・ティール組織は管理職がいなくても自ら成長し続ける組織の仕組みであるといえると思います。
そもそも一言で説明するのは難しいのですが(500ページ以上あり、スッキリ理解するのはなかなか困難)。私も時間をかけてよみましたが、かなり時間がかかりました。
しかし、読んでいて高揚するような内容でした。ティール組織ではヒエラルキーや官僚的マネジメント、長期目標といった従来の会社経営のマネジメント手法を重視していません。
(これらをなくすという意味ではなく、これらを重視しないので廃止している会社が多いということです)
本書ではティール組織のマネジメントを取り入れた企業の事例が沢山掲載されています。
面白いのはそれぞれの会社が「ティール組織」を目指してそのような形を取っているのではない、ということ。
それぞれの企業のトップが強烈な信念を持って組織運営にあたった結果、たどり着いた形を著者が体系化した、といったほうが正しいでしょう。
この本では組織の進化の過程を色で表現しています。
- レッド組織
- コハク組織
- オレンジ組織
- グリーン組織
- ティール(青緑)組織
上記は組織の進化の形を表しています。それぞれ組織の形をたどっていくと、ティール組織の形を概念的に掴むことができます。
レッド
力が支配する世界です。欲しいものを力で奪う、最も原始的な組織の形。

力で支配する世界なので労働は主に仕える主人への恐怖や畏敬の念などに依存していました。組織の展望や目標、実現したい理念などはありません。
コハク
はレッドが更に進化した形態。「権威」や「長期的な展望」という概念が出てきました。

書籍の中では軍隊や王権による支配などであると説明されています。多くの人を統率することが可能になったのはこの組織です。
レッドが武装した「山賊」集団なら、組織された武装集団である源氏や平氏はアンバー組織といえるかもしれません。
この組織の形は安定している社会環境にはよいとされます。たとえば外部環境の変化スピードが早くない時などです。
平時の軍隊などはそうですね。しかしひとたび戦いがはじまり戦局が不安定になってくるとオレンジ組織は組織全体で誤った方向に走ることもあります。
オレンジ
私達の多くが働いている組織の形です。

「管理」的な側面がとてもつよく、組織を機械のように見立てていることから、「生産性」や「工程」、「管理」、「開発」など、製造業で使われる言葉が社内でよく使われます。
私達の多くが身をおく会社組織を思い浮かべるとイメージしやすいですね。この組織の特徴誰もが能力に応じて上を目指すことができます。これはコハク組織にはありませんでした。コハク組織は生まれの階級などで、目指すことができる上限が決まっていました。
ボトムの知恵を結集して、能力のある少数の人材を少数選び出すことで上を目指してもらいやすい組織のデザインです。
それまでのコハク組織にイノベーションを起こすという発想はあまりなかったのに対し、オレンジ組織ではイノベーションが起こりやすくなった、と言われています。日本の組織はオレンジ組織にとても馴染みやすいといえるといえます。
ヒエラルキー構造、ボトムアップ、合議制、長期雇用、長期的に安定的な組織の形がオレンジ型の特徴かもしれません。
よいことずくめのようにみえますが、反面、人間らしさや「自分を活かして働いている」という感覚はあまりありません。
私達の大半が会社員として働いています。多くの方はオレンジ組織で働いていると推測します。
あなたは会社で働いていて幸せですか?幸せに感じていないなら「オレンジ」の負の側面を感じているのかもしれません。
私は今まで長く会社組織で働いてきましたが、一度も自分をさらけ出し、能力を活かしきれていると感じたことがありません。
会社生活の中で、心から納得して上下関係の中に身をおいている人は少ないのではないでしょうか。
また、「エライ人の言っていることだから」という理由で「なんでこんなおかしいことがまかり通るんだろうか」というようなルール無視の行いが許されたりします。役職と権威がしばしば混同されがちになるのもこの組織の特徴といえるでしょう。
グリーン
グリーン組織はオレンジ組織のヒエラルキー構造を残しつつ、個人に焦点があてられつつある組織の形をいいます。

会社の中で自己を開示できるようになるイメージでしょう。多様な価値観を認めるので、権威な雰囲気はなくなります。
主体性や自主的という使い古されたがあまり機能していないキーワードが生きている組織である、と理解しました。オレンジで働いている私達には夢のような組織です。
ティール組織
最も新しい組織の概念です。グリーンの上があるとは、驚きです。この組織の形は「ないないづくし」の組織です。

ティールでは組織を生命体として捉えています。組織メンバーはお互いを信頼しあい、組織の目的を常に話あう場があります。
「あります」というよりも意識的にデザインします。役職よりも役割、上司による評価などもなくす、という考え方が馴染みやすいのもこの組織の特徴です。
書籍では以下のような会社が紹介されています。
ビュートゾルフは4人で創業してから10年で10000人を超える組織に急成長した驚異的な会社です。
https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/contribution/2016/kokushinkyo1611-care_01.html
夢のグリーン組織の上があった、ということです。是非うちの会社もこんな組織にしたい!抱月工業の大久保社長が目指すのはこのような組織なのです。
次回は抱月工業の組織について迫ります!