
キツイというイメージの溶断業。実際、町工場のような職場ではありますが、驚くべき経営スタイルの会社が大阪にあります。
前回のインタビュー記事に引き続き、(ティール組織という新しい経営スタイルを取り入れつつある会社。前回の記事は詳しくはこちらの記事を読んでくださいね!)抱月工業さんを訪問していろいろと質問をして来ました。
今回は実際に会社を訪問し、いろいろと質問をしてきました。
(訪問日は平成30年12月14日)
抱月工業さんとは、大阪府交野市で溶断業を営む会社さんです。溶断業といえば、「町工場」のキツイというイメージを持つ方もおられるのではないでしょうか。
実際、お邪魔してみると、一見どこにでもある町工場です。しかし、抱月工業の経営システムはどこにでもある仕組みではありませんでした。
会社の目指す姿を考え、自社の強みを磨き、社長が細かく言わなくても社員が自分で考えて行動する組織を作り上げています。代表取締役社長の大久保さんから、その秘訣をたっぷりと伺いました。

Contents
社員がイキイキ働き、生産性の高い会社を目指す
質問:どんな会社を目指されていますか?
「社員が生き生きと働ける、ラフな私服で来て働ける会社にしたいんです。そのために優秀な人を採用してレベルアップに取り組んでいます」
と、大久保社長は目をキラキラ輝かせながら話します。
生産性を倍にすることが当面の目標なのだそう。世の中はホワイトカラーの仕事までも機械化・自動化が進んでいます。
「RPA(Robotic Process Automation、ホワイトカラーの単純な間接業務を自動化する技術)が普及してきており、10年後には生産性は倍になるでしょう。
今の売上が横ばいだとすると10年後には半分の社員でよいことになります。雇用を守るためにも生産性は倍にしていくことを目指す必要があります」
質問:生産性を倍にするためにどのような取り組みをされていますか?
「生産技術を強化したいと思っています。当社では機械を買って改造する、ということをやります。
もともと機械自体を作るという発想はなかったのですが、機械をカスタムし、無駄な動きを改善しました。これがかなりの生産性のアップににつながっています。(機械メーカーさんには言えませんが・・)
今後、大阪はIR(Integrated Resort、カジノなどの統合型リゾート)誘致や2025年の大阪万博などで好景気を迎えます。仕事に対して人が足りない状況が発生する。将来に向けて生産性を高める必要があります。
ただし、生産技術の向上だけだけではなく、人材の採用も必要です。人手不足のために外国人を採用する同業他社が増えています。しかし、何年かすると母国に帰ってしまいます。それでは会社のレベルは上がりません。
当社は日本人を採用して育てます。理系の人材を中心に採用活動を進めています」
二次加工と社員の質の高さが強み
質問:顧客はどういう企業が対象でしょうか?
「当社の顧客は大手の建機メーカーが中心です。求められるクオリティはかなり高いものがあります。その積み重ねが当社の高い技術につながっています。
たた、顧客の業界を特化すると業績が不安定になります。いろいろな産業機器メーカーを狙いたいし、これから伸びるであろう建築機械関係にも営業活動をかけています」
質問:大手の顧客に評価されているのは、同業他社と比べてどのような強みがあるのでしょう?
「溶断だけをしている同業他社はたくさんあります。溶断の後に穴開け、開先、曲げなどの二次加工ができる企業はほとんどありません。別の企業に依頼をすると納期が長くなったり、輸送コストがかかったり、打ち合わせやチェックにも二重の手間がかかります。
当社は二次加工までできることが大きな差別化の要因になっています。他にも、見えないところの差別化ができています。お客さんが当社の工場を訪問されると、社員がキビキビしているとおっしゃていただけます。
意欲が高い社員が多いので、品質や納期をしっかり守ることにつながっています」
なるほど。ここで現場を見せてもらいました。いくつか写真を紹介いたします。






人材採用-本音で対話して、尖った人材を求める-
質問:先程、採用のお話がでましたが、どのような人を採用したいと思っているのでしょうか?
「とにかく尖った人材を採用したいと思っています。平均的に優れた人物、というよりもなにか一つでも優れたものを持っている人物を採用したいです。また、コミュニケーションが取れる人間がよいですね」
質問:採用で工夫をされていることがあれば教えてください。
「特別な事はおこなっていません。ただ、採用は私が行います。会社を強くするのは人ですし、人が全てだと思っています。
また、学生の採用では「社長メシ」と銘打って学生を新地に連れて行ったりしています。人は美味しいものを食べるとこころが和んで、つい饒舌になるんですね笑。美味しいものを食べながら本音を語る。
本音を出せない組織ではいい仕事は出来ません。社長に直接本音をぶつけることができる会社にしたいのです。だからよい人材を採用出来ているのではないか、と思います」
(Kirrinの心の声)私の会社も採用はとても苦労しているので、スゴイ。正直、通勤に便利とは言い難いロケーションだが、平野区から通う社員もいると言います。
人材配置-多能工化を進めて脱職人-
質問:人員配置はどのように決められていますか?
「数年に一度ジョブローテーションを行っています。ジョブローテーションの目的は多能工化であり、脱職人ということです。
職人を作ってはならない、と思っています。私が社長に就任したころはひどかったです。
特定の技術は持っているが、気に入らないとへそを曲げる。仕事を放り投げてぷいっと帰る社員もいました笑。
そこで多能工化を進めました。もっと早いスピードでローテーションをしてもよいと思っています」
人材教育-OJTを中心に、主体性を育てる-
質問:教育制度はありますか?
「教育は基本的にはOJTです。研修らしい研修は行っていません。やはり主体性がものすごく大事です。座学では人は成長しません。人が成長するのは実践や経験です。
リーダーには製造コンサルタントが月に2回、指導を受けています。実業務の中でいろいろなヒントを得て学びになっています」
(Kirrinの心の声)機械の操作が主となる仕事であり、論より慣れろ、ということが主体の現場。
成人の学びの最も大きな要因は直接経験である、とはよく耳にする。実際、以下の研究結果にも示されているように、直接経験が成人の学びの7割を占めており、研修などは1割程度の寄与しかしていない、というデータもあるくらいである。
抱月工業さんの「習うより慣れろ」は理にかなっている。

人事評価ー個人の努力を評価するユニークな方法ー
質問:人事評価では、どういう社員を評価されますか?
「努力したかどうかです。そもそも人事評価は異なる人間に同じモノサシを当てて図るもの。デコボコが均されて均一になってしまう。
その中で相対的に評価をするのでは無くて、社員ひとりひとりが置かれた環境の中で努力をしたか、そうでないか、ということを評価基準にしています。細かな項目などもなく、とてもシンプルです」
努力を基準にするとはなかなか斬新な切り口ですね。
「相対評価ではなく、絶対評価で評価したいという考えが根底にあります」
質問:誰が社員を評価されていますか?
「現在は、私が全員を評価しています」
質問:社長が全員を評価するのは難しくないですか?
「今は社員が80人ぐらいなので、毎日現場を回ると誰がどのように努力をしているかがわかります。
たとえば、最近は機械加工の現場の社員が展示会に行き、高い工具を探して生産性を上げました。すると、さらに工具を探すようになったんです。自分で考えて努力していることがよくわかります。私にはいちいち相談はしません。
自分で考えて、自分で判断できるように裁量を与えています。努力しやすい環境を作っているんですよ。こんな努力を評価したいんです。
100人を超えたら人事制度をいれようと思っていますが、現在は私がなんとか評価できています。
ただ、評価のフィードバックはできていません。人事制度を入れるときに解決したい課題ですね」
待遇ー高めの給与水準、誰もがリーダーになれる仕組み-
質問:管理職を作らないようにされているということですが、実際のところ業務はうまく回っていますか?
「当社はリーダーを1年で交代させます。交代させたら給与も下がりますが、最初に伝えるので、皆、納得してくれています。また、リーダーはくじ引きで選出します」
質問:え!くじ引きですか!?
「はい。割り箸で笑。異論反論ありますが、当社は誰もがリーダーシップを発揮してほしい。そういう思いでこのシステムでやっていく予定です。
忘年会の席でリーダーを選出しました。大変盛り上がりました」
質問:それはスゴイ仕組みですね。本人達はどのように思っているのでしょうか。
「誰もがリーダーシップを経験して学ぶという狙いがあります。またリーダーは必ずしも万能ではありません。万能ではないからこそ、周囲がフォローすることでチームの全体力を上げていく、という狙いがあります」
質問:リーダークラスだとどのような年収体系になるのでしょうか?
「リーダーだと勤続10年前後が多いです。勤続10年の社員には決算賞与にもよるのですが、概ね700万円の年収を出しています。溶断業界の中ではかなり高めの給与体系だと思っています」
質問:決算賞与はどういうものですか?
「営業利益の25%を業績賞与として全社員に配分します。毎月のミーティングでは、”今期の利益がいくらなので、賞与の原資はいくらになりました”と報告をします。
多いと社員は喜んでくれますし、少ないとがんばろうとしてくれます。社員と一体になって利益を上げ、一緒に喜ぶ仕組みになっています」
質問:一般社員の定着に向けてはどのような取り組みをされていますか?
「昇給に加えて、福利厚生にも力を入れています。たとえば、リゾートホテルのエクシブと契約をしています。平日に泊まると宿泊代と朝食代を会社持ちになります。
すると、有給休暇の消化も促進できます。甲子園球場の年間シートを4席、契約しています。接待で使わない場合は、社員の希望者が行くことができます。阪神ファンにはたまらない制度ですよ」
まとめ
会社の未来を語る大久保社長はとても自信に満ちており、必ずよくなる、と確信していると語ります。
飾り気のない大久保社長ですが、この社長の語る未来にかけてみよう、と思う社員がいるのも納得して会社をあとにしました。
2回のインタビューを通していろいろな質問に気さくに答えてくれたくれた大久保社長。まだまだ日本では根付いていない「ティール組織」ですが、大久保社長のリードなら、近い将来、抱月工業さんではとてもユニークなティール型の組織になれそうです。
私も芳月工業さんの将来がとても楽しみです。
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